黒戸尾根・・・
ここでの事故を知った直後、心に思った。
雪のない時期に慰霊登山に行こうと。
でもその日が近づくに連れて徐々に疑問になってきた。
私は一体何をしに行くんだろう?
現場を見てどうするの?
わざわざその事故現場を見ることは、残酷なことなのではないか。
だから、彼女の通った黒戸尾根を通って
甲斐駒へ登ることなんて出来ない・・・
そんな思いを抱きながらも、甲斐駒へ向かった。
山頂に近くなってきただけでドキドキしてきた。
もう今にも目から涙が溢れそうだった。
真っ先に向かったのは山頂ではなく黒戸尾根方面。
黒戸尾根を眺めてみて・・・
とても険しい尾根だった。
とても厳しい崖だった。
これが雪で覆われていたら・・・
凍っていたら・・・
目の前にあるものが全てを物語っているかのようだった。
だから、胸がぎゅーーーっと強く締め付けられた。
そして、当時のことを想像すると心が苦しかった。
もう、ただ、ただ、涙が止まらなかった。
彼女の大好きだったビールを、黒戸尾根の方面に置いて、黙祷を捧げた。
でもね・・・
一方でね・・・
険しくて厳しい黒戸尾根・・・
私の目に、とっても魅力的に映っていた。
黒戸尾根、通りたくなかったのに、
『ここから登ってみたい』
って思ったよ。
だから・・・
きっと・・・
とっても登りたかったんだよね。
惹かれたんだよね、きっと。
そう、こんなの私の想像でしかない。
でもきっとそうだと思う。
「そんな危ないことするからだよ」って批判する人もいるだろうけど、
だけど、登りたかった気持ち、私には分かるから。
輝いてた山女がいたこと、私は忘れないからね。